傀儡伽羅倶利

主に阿紫花受。

040

勝×阿紫花

 

039

阿紫花

 

038

加藤鳴海×阿紫花英良

阿紫花、山賊に笑われて

阿紫花「そんなにおもしれぇかい?」

シュン(阿紫花の肩に置かれた山賊の手が千切れ飛ぶ)

阿紫花「人形遣いがそんなに」

ボト(地面に転が山賊の手首)

阿紫花、半眼からカッと目を見開いて

阿紫花「おかしいか!!」

バズーン、ズオオォ、ドワッ(斬り刻まれる山賊達)

阿紫花「人形遣いがそんなにおかしいかあ!!」

ズオ、ドワッ(八つ裂きにされる山賊)

阿紫花「人形遣いを、バカにすんのかぃ!!」

ズワ、ドス、バスッ(山賊、更に細切れに)

阿紫花「そんなにおかしけりゃ 地獄で笑いねぇ!」

ズバ〜〜ン(阿紫花、飛び上がって山賊を唐竹割り)

阿紫花「人形遣いを差別すんじゃねぇ!」

ドカドカドカドカドカ(山賊の顔に手裏剣の雨)

阿紫花「クソがぁ〜〜 なんでぇその目は!!
   まだバカにすんのかぃ!!
   人形遣いにも人権を〜〜〜〜!!
   差別は世界の敵でぇ!
   人類みな兄弟じゃねぇか〜〜〜!!
   てめぇら皆、人類の敵でぇ〜〜〜〜!!!」

ズザッ、ドシュッ、ズシュ(阿紫花、屍をメッタ斬り)

鳴 海「オ〜〜こえ〜〜〜。阿紫花を怒らせると地獄だな」

なんて、妄想してみたり…♪ 元ネタは…知らぬが花(笑)

037

阿紫花英良

 

黒賀徒花忍法帳。Kさんちのからくりの君風兄貴とかぶっちゃったか。ヤバヤバ(汗)

036

加藤鳴海×阿紫花英良

「ちょっ、兄さん、ちょい待ち。やっぱやめやしょう。ど〜考えたってこりゃ無理ですぜ」

「なんだよ今更、ちゃんと教えてくれるって言ったじゃね〜か」

ひと気のない場所で額を寄せ会い、声を潜めて囁く2人。

「そりゃ言いやしたがね。まさか兄さんのがこんなにデけぇなんて…こんなモン、へぇるワケがねぇじゃねぇですか」

「何、も〜ちょっとで入りそうじゃねぇか」

無理矢理に押し入ろうとする鳴海を押し退けながら、阿紫花が睨み付ける。

「そりゃ、多少の無理なら効きやすが…いくらなんでもデカすぎです。ナニやったらこんなにデカくなるんです」

「ナニって…いろいろ…鍛えたんだよ…あとちょっとじゃねぇか…ちったぁガマンしろよ」

鳴海の身勝手な言い分に、ムッとする阿紫花。

「ガマン…ガマンったって限度がありやすよ! こんな…こんなモン突っ込まれて…裂けちまったらど〜してくれるんです!!」

思わず声が高くなる阿紫花の口を、慌てて鳴海が押さえる。

「シ〜〜ッ、静かにしろよ。人が来たらど〜すんだよ」

「モガモガモガ!(そ〜思うんならやめてくんな!)」

暴れる阿紫花を押さえ付けて、慣らすように何度も出入りを繰り返しながら、鳴海はゆっくりと奥へ入り込んで行く。

「ここまで来て、引き下がれるかよ。こ〜なりゃ意地でも入れてやる」

「モゴモゴモゴ…む、無理って言ってんでしょうが! やめなせぇ!!」

手足をばたつかせ、口を塞ぐ手を振り解いて、何とか止めさせようと阿紫花が叫ぶ。

「くっ、きつ…」

「あ、ぁ、やめ…ダ、ダメでぇ…」

「も〜ちょい…あと一息……っ!」

「ひっ!!!」

 

 

 

 

ビッ

 

 

 

 

「あ、やべ…」

「あぁあ〜〜〜!! さ、裂けた〜〜〜〜!!!」

035

黒賀

鋪装もされていない狭い山道を嫌と言う程長い時間車に揺られて、ようやくその場所に辿り着いた。

峠を越えた所で、今まで狭い道を一層狭くするかのように道に覆い被さって生えていた雑木林が突然途切れ、小さな盆地が目の前に開ける。

「さ、着きやしたぜ、坊や」

助手席の阿紫花が後部座席を振り返った。

居心地悪そうにエレオノールの膝の上に乗っていた勝の顔が、嬉しそうにぱっと輝く。

「やっと着いたんだ! あんまり長いこと座ってたから、ぼく、お尻が痛くなっちゃったよ」

景色を確かめようと身を乗り出す勝を、慌ててエレオノールが引き止める。

「坊ちゃま、危ないですから。じっとなさっていてください」

目の前に広がるのは、のどかな田園風景。日本が失いつつある、古き良き田舎の情景。

大人しくエレオノールの膝の上に戻りながら、勝はうっとりと溜息をつく。

「きれいなところだねぇ。ふぅん、ここが阿紫花さんが育った所なんだぁ」

「キレイなトコだかどうかは知りやせんが。まぁ、ここがあたしの育った村です」

阿紫花は、目を細めて満足しきった猫のような笑みを勝に向けた。

「ようこそ坊や、黒賀村へ」

峠から村まで、更に酷い悪路を下って漸く村の入り口に到着する。

少し広くなったその場所で、ドアを開けて銘々は車から降りた。

助手席からは阿紫花、右後部座席からは勝とエレオノール、そして左後部座席からは、狭い車内に長時間押し込められすっかりヘバって無口になってしまった鳴海。

「ふ〜〜〜〜、ようやく生き返ったぜ。ホンット、日本にもまだこんな秘境があったんだな〜」

大きく伸びをして鳴海は、きょろきょろと辺りを見回す。

「でも、思ったよりフツ〜だな。どこにでもありそうな過疎の村、ってカンジだ」

慣れた躯にもやはり辛い道中だったのか、同じく伸びをしていた阿紫花が振り返って苦笑する。

「そりゃ、堂々と『よろず非合法受け付けます』なんて看板、出しとくワケにゃいかねぇでしょう。表向きは普通ですよ。村の名前も、地図の上じゃ違う名前ですしね」

エレオノールが車のトランクからあるるかんの入ったスーツケースを取り出したのを確かめると、阿紫花は村の奥へ向かってスタスタと歩き始めた。

「さ、こっちです。長への目通りは明日ですからね。今日はあたしン家でゆっくりしてってくだせぇ」

小さいながらも、役場や学校らしき建物もある、ごくありふれた、小さな田舎の村。

だが、いつまで歩いても誰にも行き会わない。田畑の中に目を向けても、人っ子一人、見当たらない。

「過疎って言うより、ゴーストタウンみてぇだな…」

鳴海が呟く。

しかし、ゴーストタウンというには、酷く手入れの行き届いた田畑。路から離れた場所に建つ家々の垣根も、昨日手入れしたばかりだとでもいうように美しく刈り込まれている。

まるで村全体が息を潜めて一行の様子をじっと窺っている、そんな風にも思えるほど不自然に、村は静まり返っていた。

「今は昼ですからね。それに、他所モンが入って来たんで警戒してんですよ」

と、気にも留めずに進む阿紫花の前に、突然小さな影が立ちはだかった。

「阿紫花ぁ! 他所モンなんか連れ込んで…長に叱られたって知らね〜ぞ!」

勝と幾つも違わないであろう小さな子ども。手には阿紫花や羽佐間と同じく黒い革手袋が嵌められている。

「てめっ、このガキが! 『阿紫花さん』って呼べって言ってるだろうが!!」

怒鳴って掴みかかる羽佐間の腕をするりとかいくぐって、子どもは阿紫花の背後に回り込む。

「構いやせんよ、呼び名くれぇ好きに呼ばせてやんなせぇ。それよりお前さん、昼間っからこんな所で油売って…修練の方はどうしたんです?」

くるくるとまとわりついてくる子どもに苦笑しながら阿紫花が訊ねる。

「修練〜? 先の軽井沢でお師さんおっ死んじまって、身の振り方を思案中サ。阿紫花、アンタ弟子を取る気は無いのかい? 師匠を無くした奴らぁ皆、言ってるぜ。あんたに就きてぇって」

「言ってるでしょう、あたしにゃ別に役目があるって。弟子なんぞ取ってる暇はねぇんでさ」

言ってみただけでさして期待もしてなかったのか、子どもは小さく肩をそびやかしてみせると、ちらりと勝たちの方を振り返った。

「それよりあいつら、後で始末すんのかい? だったらオイラも混ぜておくれよ。そろそろ実戦もやっていい年だってのに、大人連中ぁ村の建て直しに躍起で、オイラ達放ったらかされちまってんのよ」

「心配しなくっても長の許しはちゃぁんと取ってありやすよ。でぇじなお客人ですからね。失礼なコト言うもんじゃありやせん」

軽くたしなめる阿紫花。

くだけたやり取りに妬心を覚えて、勝は阿紫花の側へ駆け寄るとぎゅっとその腕にしがみついた。

「その子、誰?」

「へ? あぁ、村の子ですよ。人形遣いのタマゴ。何処ン家のガキかまではちょいと判りかねやすが」

「ちぇっ、これだもんな。全く、名前くらい覚えてほしいぜ」

口を尖らせてふて腐れる子どもを、阿紫花は鼻で笑う。

「へっ。覚えて欲しけりゃ、とっとと1人前になんな」

034

加藤鳴海×阿紫花英良

 

 

033

才賀勝×阿紫花英良

エレオノールは、放心したように座り込んでいる阿紫花にきつい視線で一瞥くれると、駆け寄ってくる勝に打って替わって愛おしそうな微笑みを向けた。

「坊ちゃま、ただ今もどりました。私の留守中に何も変わったことはございませんでしたでしょうか」

「うぅん、なんにも。それよりしろがね! 買い出し楽しかった?」

子犬のようにぐるぐると周りをまわりながら、勝がエレオノールの表情を窺う。

未だに時折襲ってくる刺客を警戒して、勝の側を離れたがらない彼女を、鳴海と一緒に買い出しにやらせたのは勝だった。彼女の鳴海への気持ちを察して気を利かせているつもりなのだ。

「ただの買い出しですから。別に楽しいも何も…」

僅かに頬を赤らめて、しかしつとめて平静を装いながら彼女が答える。

「それよりも、お腹が空きましたでしょう。すぐに夕食の支度をいたしますから」

しろがねは楽しかったのだと、ニコニコと満面の笑みをたたえる勝と目をあわさないようにしながら、彼女はさり気なく話題を変える。

「あっ、ぼく手伝うよ! お昼もね、卵焼き、一人で作ったんだから!」

少し得意げな勝。

「まぁ、お一人で!? お怪我はありませんでしたか?」

たちまちエレオノールの表情が曇る。

「大丈夫だよぅ。阿紫花さんがちゃんと見ててくれたし。そりゃしろがねみたいに巧くはないけど…でも美味しかったって!」

彼女はちらりと阿紫花に冷たい視線を走らせた。阿紫花が家事に関して全く役に立たないことは、彼女も既に知っている。

「でも…お昼はちゃんと用意して行きましたでしょうに…」

「阿紫花さん、あんまり食べないから…ごめんね。へたでも、いっしょうけんめい作ったらたべてくれるかと思って」

勝はすまなそうに上目遣いで彼女を窺う。

「坊ちゃまが謝られることではありませんよ。さぁ、手伝っていただけるのでしたね。参りましょう」

勝の背に優しく腕をまわして、台所へと促す。

「あ、ちょっと待っててね」

勝は再び阿紫花の側に駆け寄ると耳元に唇を寄せた。

耳朶に唇が触れて、阿紫花がびくりと震える。

「続きはまた、今夜ね」

ひそひそと囁いて、エレオノールからは見えないように大きなひとみでウインクしてみせた。

勝が背を向けている間中、エレオノールは険しい表情で阿紫花を睨み続けていた。

彼女は阿紫花が勝の命を狙ったことを未だに許してはいない。

勝が阿紫花を慕っていることを知っているので敢えて口にすることは無かったが、同じ屋敷で生活するしてることも快く思っていなかった。

「お待たせ!」

くるりと勝が振り返り走ってくるのを、エレオノールは何ごとも無かったかのように穏やかな表情で迎える。

「何のお話をしていらしたのですか?」

「ん〜、ナイショ! でも、たいしたことじゃないよ。それよりしろがね! 晩ご飯はなあに?」

「今夜は中華にしようかと思いまして…」

「わぁ、何だろう、鳴海兄ちゃんもきっと好きだろうし…楽しみだね」

「カ、カトウは関係ありません」

「ふふっ。ぼくも中華料理好きだよ。ねぇ、ぼくには何が手伝える?」

「そうですね…まずは買ってきたものを冷蔵庫に収めなくては…」

仲の良い姉弟のように楽しげに寄り添いながら、2人はエレオノールがあらわれた建物の陰に消える。

放心したようにぼんやりとその様子を見送っていた阿紫花は、2人の姿が見えなくなると脱力したように大きな溜息をついた。

「お、いたいた。阿紫花〜。晩メシはしろがねが作るんで、ヤロ〜は喰い物以外の荷物片付けろってよ」

2人が消えた建物の角とは反対側の角から鳴海が現れた。

「何です薮から棒に…イヤですよ。重いモン提げて指つめちまったらどうすんです」

呼ばれて我に返った阿紫花は振り返って思いきり渋面を作ってみせる。

「でもまぁ、兄さんがサボらねぇよう見張るくれぇは、やってあげてもイイですがね」

一転、おどけたように身を折って鳴海を見上げた。

「ホンッと働かねぇ奴だなぁ。まぁ、いいや。ど〜せアンタの力なんてたかが知れてるしな。そんでもいいから来いよ」

差し出された手は取らずに、やれやれと溜息のような息を吐きながら立ち上がる。

「へ?」

立ち上がりきる前に、がくんと膝が崩れた。

咄嗟に鳴海が腕を掴んだおかげでしりもちはつかずに済んだが、そのままへたへたと地べたにしゃがみ込んでしまう。

「おいおい、ど〜したんだよ。大丈夫か?」

軽々片腕で引き上げてやりながら鳴海が呆れ声をあげる。

「すわりっぱなしだったんで…貧血ですかね」

阿紫花は適当なことを言い訳ながら、鳴海の腕を伝って立ち上がる。

「な〜にが貧血だよ。貧血起こした奴がンな面するかって」

「んなツラって…あ、あたしの顔、何か付いてやす?」

狼狽える阿紫花。

鳴海は、そんな阿紫花の狼狽えぶりには気付かない様子で、額に落ちかかる髪の毛を掻き揚げてやる。

「何って…のぼせたのか? 顔、真っ赤だぜ」

032

加藤鳴海×阿紫花英良

「まぁ、こんなコトしてりゃ…いつかは見られっちまうモンなんでしょうしね。済んじまったこたぁもうイイんですよ」

短い沈黙の後、阿紫花は大きく息をついて口の端を歪め、青ざめた顔でぎこちなく笑ってみせた。

「ただ…好きで入れたモンでもねぇし…あ、あたし、アレが嫌ぇなんで…っ」

再び小刻みに躯が震え始める。

「お、おい。大丈…」

ぱしっ

 

気遣うように延ばされた鳴海の腕は、しかし阿紫花に届く前に黒革に包まれた手に鋭くはね除けられた。

「っ…、じき治まりやすから。何でもねぇ、こんななぁちっとも。てぇしたことじゃねぇ…」

半ば自分に言い聞かせるように呟いて、震えの止まらない自分の躯をきつく抱き締める。

「たいした事じゃないって…だいたい自分の躯だろ? イヤなら何でンなもん入れたんだよ!」

はね除けられて行き場を失った手を拳に握る。言いたくないなら聞かないと…だが、阿紫花の尋常では無い様子に、鳴海は問いたださずにはいられなかった。

「さっき、うわごとで言ってた…長、か?」

何かに耐えるようにぎゅっと目を閉じたまま、阿紫花がこくりと頷く。

「何だってこんな…村じゃ偉ぇのかも知れねぇけど…人のカラダを好きにしていいわけねぇだろ!?」

黒賀が非合法な集団なのは鳴海も知っている。だが、組織の人間の精神にこれほど深い傷跡を刻む理由が判らない。

「…しるしだって…あたしが、わ、忘れちまわねぇ、よ、に…」

途切れとぎれに、問われるがまま答える阿紫花。

「印? 忘れるって何を…」

阿紫花の躯の震えが止まった。ゆっくりと瞼が上がり、表情の欠け落ちた瞳があらわれる。

魅入られたようにどこか遠い一点を見つめながら、阿紫花の唇から抑揚の無い声が零れた。

「あたしは黒賀の…黒賀のための、人形」

「ンな訳あるかよ!」

鳴海はやりきれない思いで叫ぶと、阿紫花の強張る躯を強引に引き寄せ、力任せに抱き締める。

「アンタは人間で…誰のもんでもねぇ! そんな、自分を物みたいに言うのは止めろ!」

どれだけ強く抱きしめてみても阿紫花は、糸の切れた人形のように腕の中でだらりと動かない。

「…っは、兄さ…苦し…」

呼吸も忘れたように動かなかった阿紫花が、締め上げられた息苦しさからか、思い出したように大きく息を吐いて鳴海の腕の中で身を捩る。

「あ…わ、悪ぃ」

鳴海が慌てて手を放すと、不自然な膝立ちの姿勢から解放された阿紫花はそのままその場にへたり込んだ。

「阿紫花…」

触れようかどうしようか。迷うように宙で掌を握ったり開いたりの鳴海に、阿紫花はくすっと小さく笑みを零す。

「兄さん…そんなに心配しなくっても、もう大丈夫ですよ」

阿紫花の笑顔に、つられるように笑って肩の力を抜く鳴海。

「…頬っぺた、腫れちまったな」

ふ、と真顔に戻って、鳴海は揃えた指の背で阿紫花の頬にそっと触れる。

充分に加減したつもりだったが、それでも先ほど鳴海に張られた片頬は周囲よりも僅かに高い熱を鳴海の指先に伝えていた。

「ん…冷てぇ」

阿紫花は気持ちよさそうに目を閉じると首を傾け、触れてくるだけの鳴海の指にその頬を押し付ける。

鳴海は、もたれかかるるように押し付けてくる頬をそっと撫ぜると、そのままゆっくりと首筋へ指を滑らせた。

「ン…ぁ」

首筋から鎖骨を伝い、胸の突起を掠めて。

鳴海がもたらす感覚を追うように目を閉じたまま、じっと動かない躯の上を滑って、微かに上下する下腹に辿り着いた指は、阿紫花の躯がまだ酷く緊張していることに気付く。

「よっ、と」

いきなり鳴海は阿紫花を膝上に引き上げると、背後からぐっと抱き竦めた。

「やっ…な、何!? はっ、離しっ」

仰け反って暴れる躯をきつく抱き寄せ、鳴海が囁く。

「大丈夫。何もしやしね〜って」

「や、やでぇ、背なはっ、勘弁し…ぁあ」

ガクガクと引き攣る躯を引き寄せて耳元に口を寄せる。

「こ〜すりゃ見えね〜だろ? 俺にも、誰にもアンタの背中は見えね〜よ」

優しく子供をあやすように。

「大丈夫、大丈夫」

ゆらゆらと躯を揺らしてやりながら何度も囁く。

「怖いコトなんか何もねぇ」

鳴海の腕がただ抱き締めてくるだけで何もしてこないことが判ったのか、徐々に阿紫花の躯から緊張が失われてゆく。

「少しは、落ち着いたか?」

阿紫花がすっかり力を抜いて躯を預けるようにもたれかかってくる頃を見計らい、締め付ける腕を僅かに緩めた鳴海が肩ごしに覗き込んできた。

「こンな早くに震えが止まんのは…初めてですかねぇ」

腕を伸ばし、震えの治まった自分の指先を不思議そうに眺める阿紫花。

黒革に包まれた長い真直ぐな指が、ゆっくりと滑らかに折り曲げ伸ばされるその様には、何か人の身体の一部ではなく、未知の生物の生態を眺めているような、そんな奇妙な美しさが潜んでいて、思わず鳴海も見入ってしまう。

031

才賀勝×阿紫花英良

「ねぇ阿紫花さん。キスしてもいい?」

勝は、ぼんやり木陰に腰掛けていた阿紫花の元に駆け寄ると、躯を投げ出すように抱き着いてきた。

「へ?…ここで、ですかい?」

甘えるようにもたれてくる勝を抱きとめながら、阿紫花は慌ててきょろきょろと辺りを見回す。

「べ、別嬪さんに見付かっちまったら…あたし、殺されちまいやすよ」

両腕を首筋に絡め、唇で睫毛を食む勝に別段抗いもせず、阿紫花は周囲を気にする様子でしきりに身じろぐ。

「平気だよぉ。しろがねは鳴海兄ちゃんと一緒に晩ご飯の買い出しに出かけちゃったもの」

「で、でも」

「お兄ちゃんのバイクで出かけたから。帰ってきたらスグ判るし!」

勝は阿紫花の唇をぺろりと舐めあげると額をくっつけるように顔を寄せて、躊躇うように揺れる瞳を覗き込んだ。

「ね。いいでしょ?」

「あ…へぃ…」

射るような視線で見つめられて、魅入られたように阿紫花は小さく頷いた。

「んっ…」

柔らかな舌が、僅かに開かれた阿紫花の歯列を割って口内に入り込んでくる。

その形を確かめるように、暖かな感触が舌の輪郭をそろそろと辿り、触れ合った舌の間から唾液が溢れ出す。

二人の混じり合った唾液を、阿紫花は喉を鳴らして飲み下した。

阿紫花の舌の上を這い回る短い舌も、襟足を探る小さな指も、決して奥まで入り込んでは来ない。

もどかしさに勝を抱きとめていた阿紫花の腕は、何時の間にかその背にまわされ続きをねだるように深く交差する。

勝は阿紫花の僅かに弛んだ両膝の間に入り込んでゆっくりとのしかかってきた。

「は、ぁふ…ん」

阿紫花は勝の躯に縋り付きながら、目を閉じて舌先をくすぐる生暖かい感触を夢中で味わう。

くすっ

小さな笑い声とともに阿紫花の口内から勝の舌がするりと逃げだした。

「阿紫花さん、可愛いねぇ」

「あ、ぁ、ぼ、やぁ」

ふいに口内から消えた暖かさに、不安気な阿紫花の瞳が揺れる。

もっとと、物欲しそうに唇に伸ばされた長い舌をゆるく噛んだ勝は、再び阿紫花に口付けた。

満足そうな溜息をついて、うっとりと阿紫花は目を閉じる。

口付けに酔う躯から力が抜けてゆく。勝の重みさえも支え切れずに、阿紫花の躯はゆっくりと倒れ込んでいった。

ブロロロロロロ…

遠くから地響きのようなバイクのエンジン音。阿紫花の躯が雷にでも打たれたように大きく跳ねた。

「べ、ぴんさ、かっ、帰って来…っ」

正気に返った阿紫花は慌てて勝から離れようとする。

「まだ門を入ったところだよ」

小さな柔らかい勝の両手が、阿紫花の頬に添えられる。大した力を入れている訳でもないのに、阿紫花は勝の舌から逃げることができない。

瞼と鼻筋とに、啄むようなキスの雨。

「も、ダ、ダメ…見、付かっちまっ…」

「きっと今、車庫に入ったところ…」

勝の舌がもう一度歯列を割って口内に入り込んできた。

逃げる舌先を追って、思う様阿紫花の口内を貪る勝。

「あ、は。も、勘弁し、」

「今、荷物を降ろして…」

舌の上と、そして裏にも、殊更丁寧に舌を這わせる。

「こっちに向かって歩いてきてる」

勝の背で、シャツを掴んでいた阿紫花の指がひどく震えた。

「ぼっちゃま!」

建物の影からエレオノールが現れる直前に、漸く勝は阿紫花の舌を解放する。そして何ごとも無かったかのように振り返ると、極上の笑みで彼女を迎えた。

「おかえりなさい、しろがね!」